iPadであなたはもっと馬鹿になる

iPadであなたはもっと馬鹿になる(Newsweek誌の記事)
http://newsweekjapan.jp/stories/business/2010/05/i.php


 そんなこと分かってます。私はウォークマンが普及した頃、この機械は人の音楽に関する能力を衰退させると考えていました。いやいや、それどころかテレビが普及し始めた1950年代後半には社会評論家の大宅壮一によって、テレビによる「一億総白痴化」が看破されていました。



 ウォークマンは人の「音をイメージする能力」を奪います。
 昔々、人は一度聴いた音楽を記憶を頼りに何度も頭の中で再現させていました。 誰かの素晴らしいコンサートの帰り道。演奏された曲を思い出してはその余韻に浸ることもあるでしょう。その後の数日間はその演奏を思い出すでしょう。いつまでも忘れないかも知れません。それは記憶から音を再現する能力があるからこそ可能なのです。
 また記憶が頼りだから完全な再現にはならないでしょうが、その代わり勝手な加工もできました。ボーカル抜きで再現したり、ベースのパートだけ強調したり、勝手にピアノを追加したり。自分の中で音のイメージを作り出して行くこともできるわけです。
 しかしウォークマンは演奏を完全に再現します。人は機械から流れてくる音楽を受け取るだけ。人を受け身にする機械。しかも家庭で聴くレコードのように「時々」ならともかく、ウォークマンは身につけて四六時中聴いています。これでは音をイメージする能力が衰退する。私はそう考えました。

 テレビによる一億総白痴の本来の根っこは「番組が低俗だから」だったようです。しかし私はこれもウォークマンの場合と似た意味で人間の能力を奪うと考えています。
 テレビは映像と音を視聴覚に送り込む機械。読書なら人間は文章から情景をイメージします。テレビは出来上がりの映像を見せるので、人間は情景をイメージする能力を使わなくなります。劇場へ出向いて見る映画と違い、テレビは家庭でいつで見ることができます。四六時中見ているわけではないでしょうか、見ている時間は確実に多い。完成品の映像がどんどん脳に送り込まれてくると、映像でない情報(例えば文字や音)から映像をイメージする能力はどんどん衰えてゆくでしょう。

 iPhoneを使っていていると気持ちが良い。
特にブラウザ系のアプリはスルスルと気持ちよく動きます。それに対して文章を考えながら入力するのは苦痛ですらあります。パソコンだとWebで見た情報をさらに深く調べるために検索し、さら疑問を検索し・・・と摂取した情報を反芻するようなことをよく行います。しかしiPhoneではWeb中のキーワードやそこから連想したキーワードで検索を繰り返す情報を反芻するような行為をするにはあまり向きません。このためiPhoneを使うと、ついつい受け身になり情報を見ることが中心になります。そして自分から情報を発信するのはTwitter程度の「ひと言」発信になってしまいます。iPhoneには数万のアプリがあり、それらの中には頭を使うゲームのようなものもありますが、そういう事はiPhoneでやらなくても良いわけです。結局私のiPhoneは情報を取り込む受け身の道具となっています。
 ではiPadは?基本的にはデカイiPhoneです。画面が多きのがいい。今までiPhoneでは小さな画面で我慢していた部分もあります。長い文章のWebページの場合、日本の携帯電話は自動的に画面右端で折り返して縦にだけスクロールすればよいのですが、iPhoneは折り返してくれないので、画面を右に左にスクロールさせ、さら縦方向にもスクロールさせないといけませんでした。
 これが大画面になれば、横にスクロールさせねばならないシーンはほとんど無いはずです。今まで以上に気持ちの良い「受け身の道具」になりそうです。

 音楽にしろ映像にしろ何にしろ、
人間が受け取る情報(外部から入る刺激)の質が高いと、そして容易に入ってくると、情報を自分で補完することなく脳が吸収してしまうので、その辺の能力を使う機会が減りどんどん衰退してゆくのです。つまり「iPadであなたはもっと馬鹿になる(Newsweek誌)」は正しい。
 ただ1つ付け加えるな「だから何?」

 人間は昔から便利な何かを1つ入手する度に能力を衰退させていった。
ナイフでえんぴつを綺麗に削れるか?リンゴの皮をちぎれることなく螺旋状にむけるか?一部のアスリートを除けば確実に体力も衰えています。
 それでも頭脳は現代人の方が賢い。白痴化なんてウソ・・・のようにも見えます。しかし錯覚です。昔の人に比べて知識が増えただけで知恵がついたわけではありません。知識が増えた分、よりよい選択肢が見えるようになりました。しかしだからといって選択肢の中のベストを常に選択しているわけではありません。見えている選択肢の中から最良の選択をするのは、もしかしたら昔の人の方が多かったかも。

 5/25放送のワールド・ビジネス・サテライト(TV東京)で小谷真生子さんがiPadを大変気に入ったようです。iPadの画面に表示されたジェリー・ビーンズがiPadを回転させるに合わせて下へ落ちてゆく。揺らすと画面の中の絵が揺れる。何の役に立つのか?という機能だが使う人を気持ちよくさせるのはAppleの得意とするところ。他社はこのような機能を決して無視しているわけではない。真似ようとしている。だがこの辺の数値やロジックで割り切れない部分は他社には真似出来ません。


 私は現在iPod Touchを使っています。ここではiPhoneiPod TouchiPhone OSを搭載した同類のデバイスとして一括りでiPhoneと記述しています。